天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 和也が煩悶していることで、蔑ろにされていると感じたのか、橘はいきなり彼の頬に手を当てると無理やり自分の方に向かせた。

 むっとした表情もまた……―――って、ちがうがなッ! 意思が弱すぎるわ自分!


「―――何を迷ってるの? ううん、迷う必要があるの?」

「そんなの言わなくたってわかるだろっ―――ぶひゅっ!?」


 出し抜けに今度は両手で頬を思いきり挟まれる。


「……な、なにゅ(何)?」

「あのね、井之口くん。八方塞がりでどうにも始末できなくなったら、取るべき手段は諦める以外ないのよ。わたしの気持ちも、手詰まりの友情もね」


 わたしの気持ち? と反芻して、訝しげに橘を見る。

 普通にしていても、ひとより数倍強い力を放射する双眸を覗き込み、和也はこんがらがる頭で一所懸命かんがえた。


「それはつまり…………おまえを、フるのか?」

「フれるの?」


 間髪入れずに問い返されて気後れする。
 子鹿のような眸にぞくりと身震いがした。


 ―――……フれる、だろうか。


 胸を打つ、この強い鼓動の持つ真意を覗き込もうと思った。

 ……思ったけれど、できなかった。自信がなかった。


 ただの緊張や欲情でないと、断固として言い切るだけの自信が。



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