天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「あ、あのさ、橘、こんなとこで悪いんだけど、その……」
もじもじと言葉を紡ぎはじめた笹原に、こないだの返事……という科白が先んじて和也の頭に浮かんだ。
阻止していた事態が……!
己の迂闊さに血の気が引く。
「あー! 笹原! もう戻らないとまずいんじゃないか! 黒田は時間厳守にうるさいからさっ!」
「えっ!? いや、あ、イノちょっ!」
「あーやベー! 時間がねーっ!!」
未練そうに後ろを振り返り振り返りする笹原の手を引き、和也は強制的に彼を倉庫から連れ出した。
それは、恋人同士を引き裂くように残酷で無粋に過ぎ、よほどの愚鈍でない限りはよくよく空気を読んで脇に控えているべきである。
それが和也ならなおさらだった。
が、諸悪の根源たる罰ゲームの発案者が取るべき行動としてあまりに矛盾しているのは承知の上である。
しかし、事情は変わってしまった……。
予測不能の大魔王橘がどう出るか知れない以上、同じ空間にいるのはいかにもまずい。