天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「まあ? あのレベルだし、可愛くないとは言わないけど、橘ってさ、ふつうに面白いじゃん。一緒いてたのしいし、全然気負わなくていいっていうか。いつもにこにこしてて、絶対人をそらさないし。
それって、見た目なんかよりずっとパートナーに求めることとしては重要なポイントだと思うわけ」
そうだろ? と同意を寄せられ、和也は頷いたが、内心、……それはおまえ、あいつの本性を知らないからだよ、と突っ込んだ。
確かにクラスでは紛れもなく笹原の言うとおり、いつも明るく朗らかで前向きで、温和な印象を崩さない聖母のようではあるけれど、
実際は、己はサディストだと断言して憚らないようなわがまま大魔神である。
そのことを話したら笹原はどう思うだろう。
かんがえて、無駄だと即座に思い直す。
(信じないに決まってる)
とんだまゆつばものだとバカにされる。
あるいは、笹原が告白したんで井之口のやつ今ごろになって焦りだして、情けない妨害を図ろうとしているんじゃないか――そう卑怯者呼ばわりされるか、
はたまた、バカにされるどころでなく、根拠のないでたらめで大顰蹙を買う可能性もある。
それだけ橘の人望は厚い。
信じられる、ということに対する質が異なる場合がある。
俺に霊感があると言ったとき、周囲の男子はそれに乗っかって騒いだ。
頭から嘘だと切って捨てなかったのはそれが相手にとってわりと無価値の事柄だからだ。
信じても信じなくてもいい。そのときおもしろくさえあれば。
その日の天気くらいの重さしかないのだから。
が、橘はちがう……。