天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

(橘、おまえ、完全に惚れる相手を間違えてるって……)


 やつは男だ。

 磊落で、男前で、心意気が桁外れにちがう。


 目の眩むようなエロティックに翻弄されて、性欲と恋慕の区別さえつかなくなっているようなクズの俺なんかとは、人間としても、男としても、出来がちがいすぎている。

 眩しそうに笹原を見上げ、和也はまた別の意味で己の卑小さを痛感し、視線を落とした。


 ……人としての器も身長も、比例するように俺はとても小さい。


 それまでとは180°見方が変わってしまった、すでに"かつての"と頭につけるべき悪友にすさまじい劣等感を覚え、立ちくらみにさえ見舞われる。


(笹原の方が、お似合いだよ)


 はじめからそうだ。

 橘の想い人を知る前から、笹原なら相応しいと、申し分あるまいと、男子の間では話がとっくについていた。



 俺ではない。



 橘の隣にはまさしく笹原が似合う。
 笹原しかいない。

 笹原以外の男ではちょっと納得がいかないくらい。


 情熱に滾る精悍な横顔に、ちくりと暗い感情が和也の胸を刺した。


 毒が回るように、むくむくと馴染みのない感情がふくらんでいく。

 それを妬みと呼ぶことを、和也本人はまだ知らない。


 ―――好きになったものは抗えないのよ



 ……好き?

 自問して、和也はいよいよ途方に暮れた。

 まさか、という否定の気持ちと、払拭しきれぬ笹原への敵意に似た衝動に鼓動がはやり、



 彼はこのとき、自身に這い寄る漆黒の鎖の存在を、はじめて自覚した―――……。



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