天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
3、わたしの言うことが聞けないの?
和也の葛藤の日々がはじまった。
まさに、寝ても覚めても状態。
軽く病んでいる。
それまでよりいっそう橘小百合に振り回される生活になってしまった……。
なってしまった、か……語弊があるか。
そう、自分でそうしてしまったのがいけない。
自分の責任ゆえ何にあたることもできず、和也は起き抜けからはじまる苦悶の生活にいささか辟易しかけている。
彼女を惜しいと思ったそのときに、彼の胸を騒がせた「好きかも知れない」というあやふやな感情は、今の、横柄で意地悪で無茶苦茶な肉食女ということを知らなかった段階での話である。
何度も言うが、色気に血迷ったのは好きとはちがう(と言い聞かせている)。
それは断じてそうだと言い切らねば、和也はこれからの我が身の行く末に甚だ不安と恐怖を覚える。
だが和也は、橘を視界に入れたとき、あるいは無意識に頭やまぶたに浮かんだとき、自身の左胸に走る軋むような疼くような痛みをただの色ボケだとは思えず―――思いたくないだけとは思いたくない……―――ただただ持て余していた。
だから、持て余している間にと、「仮に好きだとして」という夢想だけはやたらと張り切って取り組んでいる。