天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「ありがとう小百合ちゃん、マジで助かったぁ」
「ううん、気にしないで」
「小百合これ、サンキュー。今度なんかおごるわ」
「そんな、いいよ。ええ、ほんとにいいの? やったぁ、じゃあ何にしよっかなぁ」
「小百合ちゃん、ちょっといい?」
「ねー小百合ー、昨日のことなんだけどさぁ」
あちこちからかけられる争奪戦がごとき小百合コールを本人はてきぱきと、しかし事務的なそれではなくいちいちに心を込め、嫌な顔ひとつせずにきちんと応じる。
そういう、隅々まで行き届いた振る舞いが自然体でできるのは―――たとえ演技だとしても……―――それを微塵も感じさせない橘は、やはりすごいやつだと思う。
し、情けがあると好ましくも思う。
誰からも好かれるというのは一種の才能だ。
橘を通じてどんどん友だちの輪が広がっていく嘘のような景色に、彼女が生まれ持った天性の素質を感じずにはいられない。
欠片も嘘っぽくない眺めにいささか複雑な部分もあるのだが、正真正銘のサディスト(自称……)とはいえ、
橘が好かれる理由は彼女の根っこに確かに実在する。