天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
3-2
―――油断禁物よ
そんな声が耳元で囁かれたかと思うと、出し抜けにやわらかな感触が頬をくすぐった。
刹那、和也はばっと飛び退った。
体育。
倉庫に道具をしまいに来てひと息ついていたら、音もなく忍び込んでいた橘に毎度の羞恥を見舞われた和也である。
「おまえは忍びか!」
「前世はそうだったのかも知れないわ」
ふふっと笑ってふと背後を振り返り、あ、と声を洩らした。
「見て、だいぶ本降りになってきた。積もるかしら」
昼過ぎからぱらぱらと心許なげに降り始めた雪がいつしか立派な本降りになっている。
暗い曇天にさらに濃い色の影が滲むように模様を描いている。不吉な感じだ。
「積もって欲しいのか?」
「どうかしら。雪ってロマンチックだけど、降りすぎるのはちょっとね」
そこで橘は、くしゅん、とひとつくしゃみをした。
「誰かがわたしの噂をしてるわ……」
「号令のために呼んでる係の声は聞こえるけどな」