天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
言うなり、凄まじい殺意が和也を襲った。
ぎくりと身を固くすると、いきなり背後から抱きしめられて意識が飛んだ。
彼女の顔が背中でなく、横顔にぴたりと添えられると、いやでも自身の身長を意識して、それでまたさらに体温が上がった。
俺をチビ扱いするな!
「やっ、やめろバカ! 見られるっ」
「わたし相手によくもふざけたことを抜かせるわ……。
いいこと? わたしはモテるの。噂と言えばそっちの話に決まってるでしょう?」
え? と脅すように橘は怒りを込めて抱きしめた腕に力を込める。
「……なに? 号令? 係の声? なんて言ったのかしらね、よく聞こえなかったんだけど」
お仕置きと言わんばかりに耳許に息を吹きかけられると、和也は総毛立つと同時に真っ赤になって懺悔(ざんげ)した。
「すっ、すいませんすいません、俺、調子こきました! ごめんなさい! 許してっ!」
ぱっと解放されると、壁まで走って背後を確保、目尻に浮いた涙を忙しなく拭う。
「すっ、すこしは節操を持てよ!」
「それよりあなたが慣れた方が早いと思うわ」
二の句が継げない和也を置いて、橘は愉快そうに肩を揺らしながら倉庫を出て行った。