天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
号令を終えて、更衣室へと向かう橘へ、体育教師が、おーい、と声をかけた。
「ちょっと頼まれて欲しいことがあるんだが、放課後時間あるか」
いいですよ、と橘は相も変わらずにこやかにこれに応じる。
そして、ほっとした様子で去っていく体育教師を見送ると、我慢していたようにこんこんと咳をしたのが、和也はすこし気になった。
(橘って、そういえばいつも誰かに雑用頼まれてるよな)
小学校はプリント配り、行事のしおり作り、誰も立候補がいなくて選挙が成り立たないとき、請われて委員長も務めていたっけ。
中学校は掃除当番を代わることなんてしょっちゅうで、選挙委員とか花壇の手入れなんかも思えば彼女がやっていた。
合唱コンクールの曲が決まらなくて嘆いている指揮者を励まして、自らも並行して行われる文化祭の実行委員でありながら曲探しにも奔走していた。
彼女はいつも誰かのため、誰かの笑顔のために労を惜しまず尽くしてきた。
そのことにとくに深く感じ入るとか、今度は自分がとかは思わなくて、ただ彼女がいてくれると助かるというくらいの感覚でしかなかったが、
……そのときはちょっとちがった。