天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 部活を終え、白い息を吐きながら友人らとともに玄関へ降りる。

 下足棚の前、和也は自らのロッカーからふと目を転じた。


(橘、まだ残ってんだ)


 彼女の靴箱には、この時刻、当然入れ替わっているはずの内履きではなくローファーが収まっていた。

 体育教師に頼まれた雑用が終わっていないのかも知れない。

 外はまっ暗、間もなく7時を回る。延長を希望した部はこれからが佳境だが、用事のない生徒はとっくに下校の時間だ。


「どうしたイノー」

「何してんだよ、帰るぞ」


 口々にかけられる声に、短い逡巡の末、和也は思い切ってこう答えた。


「悪い! 俺、ちょっと用事思い出したから先に帰って。じゃあな!」


 言うなり駆け出した和也に声をかける余地もなく、チームメイトは何が何やらという様子で互いの顔を見合わせる。


「おつかれー。そっちも今部活終わったとこ?」

「おー、笹原。おつかれーぃ」

「あれ、なんかあったん?」


 訊ねると、一同は再び視線を交わし、揃って首を傾げた。

 きょとんとしながら男たちを一巡し、常のメンツを思う。
 1人欠けていることに気づいた笹原は、あれ、と首を傾げた。


「イノがいないじゃん。なに、あいつだけ居残り練習?」

「いやそれがさ、いきなり用事思い出したとか言って行っちゃったんだよな」

「用事?」


 男たちは肩をすくめた。


「宿題のプリント忘れたとかだろ」

「あー、じゃん?」

「今日ほれ、保護者会の出欠用紙配られたじゃん? それかも」


 勝手に納得し始めるのはいつものこと、笹原も曖昧に頷いて、


「帰るなら俺も途中までいい?」


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