天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「校内では、朝礼とか式典の練習以外、外套を着ちゃいけないのが規則でしょ。……井之口くんだって着てないじゃない」
「着てないんじゃなくて、俺はそもそも着て来てないんだよ。男だからな!」
「どういう理屈、それ」
橘はかすかに笑う。
「男は強いってことだよ! それに俺バカだから風邪引かないし!」
「えと……それ、自慢になってないから」
ムキになって和也は吠える。
「いいから着ろって! やせ我慢して寝込んだらそれこそ大変だろうが!」
拒否する橘の肩に力尽くでコートを羽織らせる。
身長差がある分、抗われれば長期戦もあり得ると思ったが、さすがに今はそこまでの体力がないのだろう、賢明な判断で、思ったよりも従順だった。
「体育の後、頼まれてたのがこれだったのか?」
手伝おうと伸ばした和也の手を、どう勘違いしたものか、情熱的に握りしめてきた。
「…………おい」
「こういうときには缶コーヒーの一本も持ってくるものじゃない?」
「そんな暇なかったんだよ―――うわっ!」
とつぜん、力任せに肩を押されて重心が傾く。その隙をついて、ぐいと身体を引っぱられた。
つんのめるみたいにすっぽり橘の腕に収まって、もがく和也をやっぱり彼女は欠片も意に介さない。
構わず、手近にあった椅子二脚を引き寄せると橘はそこに腰を下ろした。
必然的に和也も隣に座り込む。