天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「いっ、いい加減にしろ!」
「―――ちょっと黙って」
静かな口調ながら有無を言わせない響きを聞き取って、和也はなされるがまま、強制的にもたれかかった状態で押し黙る。
滑らかな首筋に額が触れて、悔しくも心臓が高鳴った。
(俺これ、ほとんど彼女じゃん……)
「コーヒーの代わり」
前髪を分け、額にキスをされ、和也は顔が焼けるように熱を持つのを感じながらもどうしてかその場を動けなかった。
「……おまえってさ、俺のこと好きとかなんとか抜かしながら、俺のプライドは簡単に踏み潰していくよな」
「プライドなんてかなぐり捨てなきゃ、真の愛情は手に入らないのよ」
「何言ってんだよ。俺がいつおまえのことを好きだなんて言った。もう熱があるんじゃないか」
「そうね、井之口くんに触れてるときはだいたい半分熱に浮かされてるから」
病院に行った方がいい。
そうけっこう本気で思ったが、そんな正直な感想を言えばたちまち怒りを買って、昼間のような恐怖を味わうことになるだろうことは容易に察しがつく。
正直、今のこの格好も、相当身に堪える恥ずかしさなのだ。
「……今日のお弁当、中身は何だった?」
唐突に、橘がそんなことを訊いてきた。
「なんで?」
「いいから」
えーと、と和也は眉間に力を入れて考える。
「一段目は白いご飯だろ、おかずはたしかひじきの煮物とブロッコリーと卵焼き、昨日の残りのミートボールの煮たやつと、あとは……ああ、ベーコンとニラの炒め物」
「何が好き、おかず? ―――わたし?」
あたっている橘の額がこのときやけに熱く感じられたのは、単に俺自身が興奮したせいなのか、それとも彼女の風邪が悪化しているせいなのか。
すり寄せてくる頬と胸とでキャパ越え著しく、なんだかもうなにがなんだかわからない。