天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「橘はさ、昔からいつも何かかにか雑用まかされてるよな」
「……気づいてたの?」
にわか責められているように感じて、和也は思わず口を噤む。
しかし彼女にはそのような意図はなかったらしい。
だから? と先を促すような眼差しを受けて、和也は気持ちを落ち着けてから改めて問うた。
「断ったりしないのか?」
「心証を悪くしたくないから」
思いがけず、優等生のような俗っぽい発言が飛び出した。
そんなことを意識して取り組んでいるようには微塵も見えなかったため、和也は率直に驚いた。
「つまんないヤツって、思った?」
橘にはめずらしく、自嘲するような笑いが耳をかすめた。
「いや……ただ、意外だと思って」
お人好しで、誰にでも隔たりなく手を差し伸べるのが彼女の本性なのだと思っていたから。
「いい子にしていた方が楽でしょ。面倒も多いけど。衝突は少ない。―――そう、思う」
「進学に有利なため?」
「まさか。なんとなく、ね。そのうち、気づいたらそれが身に染みついてた」
孤立するのが怖いから? 誰かと一緒じゃないと無条件に不安になるから?
自らは、女々しくもその性質であるため、もし彼女がそういう小心者の気があるのだとしたら、すこし、ほっとする。
彼女がほんのちょっとだけ身近な存在になった気がした。