天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「俺には本性丸出しにするくせに」
橘は鼻先で笑う。
「あなたをわたしだけの物にするのにいちいち手段なんか選んでられない」
「俺に嫌われそうとか思わなかったの?」
「あなたは人を嫌いにならない人でしょ。それに、すべてをさらけ出さずに恋愛なんてできないわ」
先ほど心証云々と言ったあの健気さはどこへ行った……。
友だちや教師からの信頼を得るのと男の心を掴むのとでは、和也には本質的にはさほどのちがいがないことに思われても、橘の中でそれはきっと大きく異なっているのだろう。
「俺に好きになってもらえる自信があるの?」
問うと、おもむろに橘が顔を上げ、じいと俺の双眸を覗き込んできた。
吸い込まれそうな眸を、自身を鼓舞して見つめ返し、あ、と遅ればせ、和也は気づく。
今、俺そうとう恥ずかしい科白ほざいたな……。
そんな和也のひそかな羞恥を見抜いてか、橘はくすりと笑い、
「ある―――とは、言い切れないかな」と言った。
あいかわらず上からの物言いだが、妙に控えめではあった。
「どうやっても井之口くんの心がわたしに向かないようならそれも運命(さだめ)」
諦めるしかない。
男前なほどきっぱりとした潔い科白に、覚えず和也は怯んだ。
あ、諦めちゃうのかよ。
動揺が身体に出たのかもしれない。
橘はまたすこし笑って和也の頬に触れ、妖艶な笑みを結んだ。
「でも、ただ諦めるなんてしない。
どうしても諦めざるを得なくなったら、とりあえず……井之口くんのチェリーだけはもらっておくかな」
刹那、橘の目線が和也の股間に落ちて、彼は反射的に足を閉じた。