天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「恥ずかしがることないじゃない」
「な、なにがっ!?」
声を上げると、
「うれしいわ、わたしのために取っておいてくれたのね」
橘の笑みが深くなり、和也は真っ赤になって顔を背けた。
「ちっ、ちがう! そ、そんな別に、俺は……ッ!」
「ちがうの? じゃあ……」
言葉を切り、橘は焦ったように口元を押さえた。
「反応しちゃった?」
再び視線が下へと移りかけ、
「はっ、はあッ!? ばっ、バカかおまえッ! バカ、バッカ、バーカ!! お、女のくせに、な、なんちゅーことを……!」
和也は回された腕の中でじたばたと身を捩り、彼女が視界に入らないところまでなんとか向きを変える。
(ど、どうして俺ばっかこんな恥ずかしい目に……!!)
和也は口中で唸りつつ、意識を別のところに押しやることですれすれの理性に耐えた。
話がおそろしく噛み合わない……。
それはきっと彼女だけでなく俺にも原因がある。
付き合わなければいい、取り合わなければいいのだということに今さらながら思い至り、和也はさながら面接前の就活生のように居住まいを正し、意固地な子供のように固く口を引き結んだ。