天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「ほんとうは、もう一人いたの。
半分ずつにして、わたしがもたもたしている間にその子は先に終わっちゃって。手伝おうかって言われたんだけど、どう見ても部活抜け出してきた感いっぱいだったから、適当に言って帰ってもらった」
「上田のやつ……せめて男子に頼めよ、そんなこと」
「体力的にはそうだけど、女子の方がこういう作業には向いてるからって、もう一人の子が上田先生にそう言われたって言ってた」
もっとも、わたしがもたもたして作業が遅れたのは、渡されたペンチの調子がおかしかったからだけど。
思いがけず負けず嫌いなのか橘は、さりげなく、けれどしっかりとそう言い足した。
手っ取り早い人選をした(と和也は思っている)上田に憤り、また、橘の思いやりに溢れた機知に感動しつつも、
始終、どこか違和感を拭えぬまま話を聞いていた和也は、だからか、と得心がいった。
チビでも男として、女よりは腕力があると自負していた俺のプライドをいとも容易くずたずたにした彼女が、
常人には手こずるサイズとはいえ所詮はホッチキス……そう、ホッチキスごときに屈するとは思えなかった。
そうして、ひとりダンボールと向き合っている間に運悪く別の先生が現れて、今やっている作業を体よく押しつけられてしまったのだという。
「誰か呼ぼうとか思わなかったの?」
「みんな部活やら何やらで忙しいのにそんなことできるはずないでしょ」
「優しいよな」
やっぱり。
と、思ったが。