天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
3-4
(そういえば橘って、小四のときに転校してきたんだよな)
その日の夜。
帰宅して、なんとなく思い立って卒業アルバムを引っ張り出してみた。
びっしりと見開きいっぱいに思い出の写真が詰まるページをめくる。ともすれば手が止まりそうになりながら、一年、二年とページを重ね、
四年生に到達した頃からようやくちょこちょこと橘小百合が紛れ込むようになった。
あの頃からでかかったんだな、と思う……いろいろと。
早熟、という言葉が脳裏に浮かぶ。
顔つき、腰回り、胸のふくらみ。
いずれも小学生のそれとは思えなくて、今さらながら彼女をただの転校生という認識でしか見ていなかった当時の己の幼稚さと不明とを思う。
あの頃はまだ異性として女子を見るということがなく、女子の発育など欠片も彼の関心を引かなかった。
身長を羨んだことは、あったかも知れないが……。
カメラを誰かが構えたらとりあえず入っておかねばと思っていた、良く言えば自己主張の激しい奔放な少年だが、悪く言えばただの出しゃばりだったガキ丸出しの和也と、
こっち向いてーと言われてようやくはにかむようにカメラに顔を向けていたおしとやかな橘とは、一緒に映り込んでいる写真はいくつもあれど、同じ写真の中に収まってあって、しかしそこに付随する思い出がまったくというほどない。
この、ちがい。
おませと冷やかすには十分、中身も器と同じだけ進んでいた橘を特別意識したことなんてなかったけど、
その実、俺は子供ながら、知らず知らずのうちに、彼女との間に心の垣根を作っていたのかもしれない。