天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
ますます頑なになったような、拒絶的なような―――
しかし逆に謎が深まることでより読み手の好奇心を駆り立てる。
(わたしだけ?)
どういうことだろう。
具体名を書くのは恥ずかしいから、それは自分の胸の内のみに留めておいて、いつかその願いが叶ったらいい。
そういう思いだけを言葉に表したということか。
橘が描く幸せ。
わたしだけの幸せ。
和也の拙い想像力ではとても思い及ばない。
さまざまな憶測を呼ぶミステリアスなその言葉は、俺の前でのみ表情を変える女豹(ひょう)の部分に関係することなのか、
あるいはほんとうに純粋に、一途に、夢を追いかけて手に入れたいとする何かがあるのだろうか。
一筋縄ではいかない彼女だからこそ、簡潔な二文字に込められた、祈るような幸せの本質に、心が惹かれる。
基本、すべてにおいて開けっ広げな和也には到底理解し得ない心理が働いているにちがいない。
橘との間にある悩ましき隔たりはこのとき、はじめて、ネガティブなもどかしさではなく、浮き立つものを孕んでふんわりと和也を包み込んだ。
どこか神秘的なものすら思わせる二文字を優しくさすり、和也はその真意を強く希った。
「わたしだけの幸せ? そんなんおまえ、"お嫁さん"に決まってんだろ」
笹原はさも当然のごとくそう言って、いきなり何、とくすくす笑った。