天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「いや、昨日ちょっと本読んでたらさ、そんなこと言ってる登場人物がいたもんだから……」
「ええっ!」
笹原と、その斜め後ろにいた滝が同時に目を剥いた。
「おまえが、本だと!?」
「えっ、何その反応。そんなにおどろくようなこと?」
驚愕の面持ちで二人は和也に詰め寄る。
「おまえ頭どうかしたのか」
「熱でもあるんじゃないか。付き添ってやるから保健室行くべ。そうだ、今すぐ行こう、な」
「ちょっとちょっとちょっと! おまえら失礼だぞ! お、俺だってたまには本くらい読むだろ!」
「読まないだろ!」
揃って言われて、和也は絶句する。
ひどい、切ない……!
……もっとも、読むものが漫画くらいなのは否定できないし、それだって滅多には読まないレベルだ。
これは、笹原に理由を訊ねられたときのために考えてきた言い訳だった。
これでバッチリ! とここに至るまでは自信満々だったものの、そういえば、俺、本読まないじゃん……、と言われてはじめて詰めの甘さを痛感する。
和也は咳払いをして、わらわらと目障りな二人の手を退けた。
「女子の幸せが結婚? なんか単純過ぎじゃないか?」
「必死こいてる婚活女子に殺されそうな科白だな」と滝。
「単純だからこそ奥が深く、ままならない……故に尊いのが結婚だろ?」
和也は目を瞬き、
「滝……今の笹原のはちゃんとニホンゴか?」
「あたりまえだ。だが俺も結婚は未経験だからな、その真髄までは……。あそこまで叙情的に分析できるのはさすが笹原だな」
「けど、結婚は人生の墓場って言うぞ?」
「女子はそんなこと言わないよ。まして、幸せを夢想するような女子ならなおさらな」