天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 無理な運動が彼女の風邪に拍車をかけたのだとしたら―――。



 次の時間、彼女は欠席した。


 着替えを保健室に届けていて遅れた沼岡が担当教師に、体調不良だ、と断る声が聞こえた。

 気がかりで、残りの授業はほとんど身に入らなかった。


 放課後。

 ちょうど部活が休みだったのを幸いに、和也は突き動かされるようにして保健室へ向かった。

 保健室のドアにはこれまた運良く養護教諭がいないことを示す不在のプレートが下がっており、和也はこそこそと保健室に忍び込んだ。


 時期柄ベッドは満床で、ぴっしりとカーテンが引かれていた。


 それは、言うに及ばず、人目を遮るためのものであったが、せめてひとめだけでも顔を見てから帰ろうと、和也は忍び足でベッドの方へと近づいた―――



 そのときである。




「そこでなにしてるの」

「!!!」



 出し抜けに聞こえた鋭い声に和也は飛び上がった。

 咄嗟に次の動作に移れず、石を飲んだように硬直する。


 鼓動が限界まで跳ね上がり、軽く意識が遠のきかけたとき、ふっと、笑うときの呼気が耳朶を揺らした。


 ごほっごほっ、と咳が続いて、おや、と和也は内心で小首を傾げる。



「―――びっくりした?」



 背後、届いた意地悪な声が掠れていた。

 おそるおそる振り返り、和也は一気に虚脱した。



「な、なんだ橘か……おどかすなよ。マジ、心臓飛び出すかと思った」

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