天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「なに?」
「座って」
枕になれと言うのである。
男の俺が膝枕の枕!?
そう思わないではなかったが、橘に掛けられた毛布以外、枕の代わりになりそうな物もなく、現に彼女はとても苦しそうで、このままにしておくのは忍びない。
覚悟を決めると、橘は気だるげに身を横たえ、男の肉の薄い腿に頭を載せた。
「かえって寝苦しくない?」
「……このアングルと、枕……ふふ、ちょっと興奮する……」
(おっさんかよ……)
だが、日頃見上げるばかりの彼女の顔をまじまじと上から眺めるのは新鮮で、とくにアゴの線から首筋にかけての無防備なラインはいっそ暴力と呼んでもいいくらい、精力剤以外の何ものでもなかった。
「ちょっと、手」
「あっ、は、はい」
言葉が足りないが、この場での意味は、貸せ、手を、である。
そんなことが一発で分かる……。
片手は大切な宝物みたいに握りしめ、もう一方の手は自身の頬にあてさせる。
そうして、これでいい、と言うように橘は口元を綻ばせた。
「なにこれ」
「お手当て」
「……お手当てってこういう意味なのか?」
俸給とか、怪我の治療とかの意味なのでは?
「いーの」
聞いた俺がバカだった。そう、彼女がそれでいいと言えばそれでいいのだ。
それにしても、いつもどおり物言いや態度は尊大だが、覇気がなさ過ぎて不安になる。
あらためて、昨日、彼女に雑用を押しつけた上田ともうひとりの教師が憎らしくおもえた。