天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
3-5
それからしばらくして、突然、保健室のドアが開けられた。
うひょっ! と身を固くした和也だが、現れたのは、どう見ても白衣の中年養護教諭とは身なりも歳もほど遠い、ほとんどギャルの女の人だった。
それはそれで状況が飲み込めず混乱したが……。
「ああもう、やっぱりじゃない。だから言ったでしょ、今日は休めって」
ギャルは、学校指定のスリッパを鳴らして横柄に踏み込んできた。
呆れた口ぶりでまっすぐ和也たちの方へと歩み寄り、ほら、といきなり病人の脚を叩く。
「起きな」
んん……、とようやく眠りかけていた橘が眩しそうに顔をしかめた。
「あ……お姉ちゃん」
「お姉ちゃん!?」
思わず声を上げ、和也ははっと首をすくめた。
「あっ、す、すいません……」
「あれー、もしかして小百合のカレシ?」
興味深そうに和也を覗き込んだギャルは、近くで見ると思ったほど渋谷系ではなかった。
彫りの深い顔立ちで、いずれのパーツもはっきりとしているためにそう見えるのだろう。
いささかスカートが短い気もするが、すっきりとスーツを着こなしているのを見る限り、社会人か。
似ていないこともないが、妹の方が万人受けする優しい造作をしている。
「えっ、あ、いや……」
「そうなる予定の人よ」
上体を起こしながら橘が、焦点の合わぬ眼差しを細めてそう言った。
掠れ、弱々しい響きながら、そこには確固たる意思があった。
瞬きをするお姉さんが妹と和也を見比べる。
和也はいたたまれない思いで首を竦めた。
「重症ね」
そう断じ、痛ましげに妹を見やった後、お姉さんは面目なさそうに和也に視線を移し、
「ごめんなさい。この子、熱でちょっと頭がおかしくなってるみたい」
ですね……、とは思っても言うまいと、和也は黙って首を振った。