天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
小学校からずっと一緒で、中学も同じだったんだぞ。
それでその間一度もときめいたことなんてなかったのに、今さら何か変な感じになるのとかどう考えてもおかしいだろ!
だいたいこれはときめきなのか?
ただ、天使に似つかわしくない憂い顔を見たせいで、無用な心配に駆られているだけじゃないのか。
寂しげな表情がまぶたに浮かんで、それを打ち消そうと和也は無理にも後者の考えを押し通し、足を動かした。
次の瞬間、
「―――ま、待って」
振り絞るような声が和也を呼び止める。
思いがけず願いが叶って、和也は少なからず高揚した。
夕陽が輪郭を縁取って黄金に輝く少女を、見慣れているはずの幼馴染みを直視できず、眩しさに紛らせて和也はそっと視線を逸らす。
「な、なに。
俺、早いとこ部活、戻らないと行けないんだけど……!」
心にもない科白が口をついて飛び出して、哀しげに俯いた橘に和也はすっと血の気が引いた。
責めたつもりも邪険にしたつもりもなかったけれど、そう受け取られてしまったかもしれない。
バツが悪くて顔を背ける和也、わずかな逡巡のあと、思い詰めたような表情で橘は、昼間のことなんだけど……、と口を開いた。