天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「物騒な話はやめろよ……」
「俺がそんなふうに裏を読めるだけ、逆のことを考えるやつもまた同じ数だけいるってことだよ」
「それは、暗に俺がガキだって言いたいのかよ」
「ムキになるな。バカにしてるんじゃねぇよ。
要するにおまえは、突拍子もないことがなんとなくすんなり飲み込めないだけだろ?
だから俺に訊いてるわけだけど、そこに自然と俺と同じ疑問を添えられないのは他人なんだからなんらおかしなことじゃない。
そのすんなり飲み込めない違和感の正体が知りたいから訊いてる。
ちがう?」
「……おまえの推測も俺からしてみればずいぶん突拍子もないけどな」
「そうか? いやいや、俺のが正常―――つか、大多数? おまえは人の裏を見ようとしないからな。
それが良さだとは思うけど、剣呑な一面でもある」
「騙されやすそうってこと?」
滝は何も言わず、黙々とアメリカンドッグを平らげた。
「でもさ滝。もし、もしも本気だって裏が取れたら? そしたらおまえの見方も変わるだろ?」
「……本気?」
棒にくっついたかすかな食べかすも残すまじと、歯を立てるようにしゃぶりついていた滝が、怪訝そうに目を上げた。
口の端についたかすを舐め取る舌の動きが、いつかの橘がしてみせた艶めかしい仕草を想起させ、不覚にもどきりとする。
短い沈黙の後、滝は緩慢に眼鏡をかけ直した。
視力を整えると、どこか悼むような眼差しで和也を見つめる。
「な、なに……?」
「これまでの話からもそうだけど、何をもってしてそいつの本気と判断するのか、俺とイノとでは隔たりがあるかもしんねぇ。
が、俺だったら……たとえば相手が女の場合、脚開かれたって信じ切れるかどうかはそいつ次第だ」
すごい科白をさらりと言われ、和也は熱くなるよりも、その言葉裏に込められた深淵に身震いした。