天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
覚悟の度合い。
それが、信じるに値するかの見極めは確かにむずかしい。
滝曰く、舌先三寸、小手先の覚悟、見せかけのプライドの放棄、あるいはいくら身体を張ってみせたところで、響くものがなければ信用に結びつくものはないとのこと。
真実はすべて相手の腹の中。
覗き込めるものではないものを、日頃から一緒にいてさえ十全には分かり合えないものを、
まして価値観がちがい、付き合う人間がちがい、自分とは縁がないと思われていた人間からのそれらしい素振りで心を許して、はいわかりましたと呑み込むのはあまりに危険すぎる。
目先の利益に目が眩み、足元の落とし穴に気づかないみたいに。
「おまえが本気だと思う相手の振る舞いに誠意が見えるか―――そこだろうな」
和也は唐突に、あれ、と思った。なんだろこれ。
橘からは何度も好きだと言われた……。
―――だから?
沼岡の眼差しが裏打ちする……。
―――それが?
……あれ?
誠意って、なんだ?
橘が好きなのがどうして俺なのか、ほんとうに俺が好きなのか。
そう疑ったことはあったけど、滝のような見方はしたことがなかった……。
それは性格に由来するものだろう、と滝は慰めるように言ってくれたけど、
和也はこれまで自身が己の心の赴くままに歩んできた人生がいかに薄っぺらく、単純で、深く考えずに過ごしてきたかを痛いほど突きつけられた、そんな思いだった。
素直や穏便といった、和也が好むことごとくを、甘っちょろいと断じられた気分だ……。
臭いものには蓋をする、みたいな。
……そういうつもりはないけれど。
(皆、そんな駆け引きみたいな思考で、毎日すれすれの関係を繋ぎ止めてるのか?)
彼らの周囲には友だち連れでおやつ感覚にこの場を訪れた様子のグループがいくつもある。
そのどれもが楽しげに、心置きない雰囲気で談笑しているのに、その陰では誰もが相手の腹のうちを探っているのか。
和也のが極端な例だとしても、滝の言い分には、そういう日常のささやかな日だまりでさえ同じように通じるものがあるのだと、そんなふうに感じられてしまい、和也は衝撃を隠せなかった。