天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
(橘の愛は見せかけで……それは、真の目的を達成するためのひとつの段階ってこと?)
それにしては身体の張りすぎな気もしないではないが、
滝の言葉を信じるなら、キスぐらいいくらでも安売りができること……。
だが―――……。
―――わたしは無垢ではないけれど、手当たり次第に穢しても構わないと思うほど自分も女も捨ててない
耳に蘇る橘の声に、和也は頭を抱えた。
「ま、俺みたいな意見もあるって、記憶に留めとけよ」
無責任にも思えるほどの軽い口ぶり。
滝はきっと、自分の放った言葉がどれほど目の前の同級生に鮮烈な衝撃を与えているか、その半分もわかっていないだろう。
留めるどころかもう時間を戻したいくらい身に沁みちゃって頭が痛ぇよ!
滝の言うような意味で、人を立体的に見るということをしてこなかった和也は、考えれば考えるほど自らを裏切るような痛みに苛まれ、胸が軋んだ。
一方で、和也はこの痛みにこそ、強い疑念を抱かずにはいられなかった。
……人を疑うことはこんなにも苦痛を伴うことなのに、どうして皆、それを表に出すどころか笑顔の裏側でこなせてしまうのだろう。
ところで、と滝が水の入ったコップを持ちながら訊いてきた。
「その相手って誰なんだよ」
「……え?」
「わかってんだよ。どうせまた本の中の科白だとかなんとか抜かすつもりなのかも知れねぇけど、そんな見え透いた嘘ならむしろつかない方がマシなくらいだ」
滝はいっそう前屈みになって、
「誰に口説かれたんだ、え? 言ってみ、俺が判断してやる。イノの良心につけ込んでふざけたことに巻き込もうとしてるようなら見過ごせない」