天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「いやぁ、3階のCDショップにちょっとね。二人を見かけたからちょっと声かけてみただけ」
「そうか。勉強はかどってる?」
「さっぱり」
二人の他愛ないやり取りを聞きながら、しかし和也の意識は別のところにあった。
……考えもしなかった物騒な可能性に、ふたたび橘との距離が遠のいた気がして…………落ち着かない。
滝の意見を鵜呑みにして頭に来ているのではないけれど、過激な愛情表現が、抑制のきかないほどの思慕に由来するものではなかったら……
その不安が拭いきれない。
彼女の思惑や企みにはまっているのだとしたらそれはそれでともかく、
もし、彼女が本当は俺のことなど少しも好きではないのだとしたら……。
好きじゃなかった、ら……―――。
刹那、心臓がどくんと跳ね上がり、周囲からぱたりと音が途切れた。
指先から熱が抜けていく。
今の和也にとってはその一事がすべてだった。
……真実は。
真実は、どこにあるのだろう。
橘の真意が知りたいと切実に願い、和也は、早く明日が来ることを同じだけ強く願った。
「てか、笹原なにそのかわいいの」
滝が笹原の携帯にぶらさがっているストラップに目を留めた。
くまがモチーフの、愛くるしさと可愛さを前面に押し出したいかにも女の子趣味といったストラップだ。
ああ、と笹原はくまを軽くゆらし、
「似合うだろ?」
そう言ってにっこりと笑った。