天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
4-2
翌日の放課後。
和也は、同じく勉強が不得手な友人をまき、強制の居残り学習を抜け出すと、事前に話があると言って呼び出した橘のもとへと急いだ。
吐く息が容赦なく煙る。
凍えた教室。そこにはいつかと同じ、橘だけが周囲の喧騒から切り離されたみたいに静謐と気品に包まれて座っていた。
「遅れてごめん」
「わたしはいいけど、井之口くん、勉強会はいいの?」
「あとからちゃんと穴埋めするから」
そう、と微笑んで、橘は向きを変えて座り直した。
こっちに来てと、目顔で促される。
息が止まった。
今ならまだ間に合うと、怖じけ、気持ちにブレーキをかける自分と、裏腹に、
一か八かの大勝負のような異様な高揚で捨て鉢すれすれな自分と……
相反し、逆上せたみたいに視界がゆらゆら揺れている。
そんな状態だから足を出した途端、何もないところでつんのめり、近くの机に派手にぶつかった。
赤面する和也を、彼女はただ穏やかに微笑んで見守っている。
「それで? 呼び出されたってことは、いよいよ答えを聞かせてもらえるのかしら?」
「う、うん……」
ぎゅっとこぶしを握る。
正反対に、橘は相も変わらぬ余裕綽々の様子で、色っぽく微笑んでみせた。
「長期休暇まで持ち越さず自らに決着をつけようとするのはなかなか賢明な判断だわ」
橘はそう言ったきり沈黙する。
途端に静寂が強くなり、和也は、これから自らがしようとしていることの酷さをあらためて思い、身震いした。
こわいくらい静かすぎるその空間を埋めるには部活動の喧騒ではとても足りない。
思考すればするほど、意に反して気持ちは乱れる。
滝からの入れ知恵が、和也を追い詰めていた……。