天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
―――思惑。
思い当たる節は和也にはない。
が、忘れているだけで、橘は覚えているかも知れない。
……俺は、罠にかかっているのだろうか。
だとしたらそれは恋の罠だろうか?
それとも、破滅か……。破滅への手招きなのか。
こうして見るだけなら無垢で、大人びているがどこかいとけないやわらかさがあって、純粋かつ従順そうな曇りのない眼差しもとても親和的で、とても、粘性のあるどす黒い感情から不穏な画策をするようには見えない。
俺に、彼女の真意が覗き込めるのか―――……。
(わっかんねぇよ……)
もう、わからん……。
こんなに「好き」のフィルターがかかってる末期の心で、彼女の何をどう疑えと言うのか。
もはやすべてを放り出したい気分で和也が力なく橘を見下ろすと、見ようによっては計ったようなタイミングで、どうかした? と言うように彼女が無邪気に小首を傾げた。
……ああ。
頭蓋にまで痺れが走る。
(もう、いいよ、どうでも……)
これがたとえ何か裏があってのことや、俺を落とすための演技や虚偽だってもうなんでも。
触れたい。
その衝動に勝てるだけの理性は和也に残っていなかった。
頬に触れ、
熱を感じ、
和也は、気づけば自分から、キスをしていた―――。