天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

「めずらしい」


 きょとんとしていたのはちょっとの時間。
 ふふっ、とこらえきれないように橘は笑った。




「して、みたくなった……」

「うん」

「いつも橘からばっかだったから、俺からしたらなにか景色が変わるかと思って」



 なんて―――強がって。

 この期に及んでまだプライドが居座っているのか。



「変わった?」


 漆を刷いたような澄んだ瞳が和也の理性を粉々に打ち砕く。


 ……ああ、もう、ほんとうに、なけなしの強がりも背伸びも、彼女の前ではあるだけ無駄だ。

 努めたところでボロが出て、結局裏目。

 男に生まれた限りはいかなるときでもかっこよくいたいと願う、願う―――

 
 けれど……。



「か、かわいいと、おもった……」

「今までブスだとおもってたの?」


 むくれた顔も腰が砕けそうなくらい、可愛い。


「ちっ、ちが、ちがくて、そうじゃなくて、その……愛しいっていうか、そういうニュアンス……」



 言ってしまって、和也はぎゅっと目を瞑った。

 今のはもうほとんど告白だ。

 緊張が腹の底から胸、頭のてっぺんへと突き抜ける。


 立ちすくむ和也に、橘はしかし、そうなのか? などという陳腐な確認はしなかった。

 そこはいかにも自信に満ちた彼女らしく、狡猾な眼差しに色香を添えて、大胆な要求を提起してきた……。





「―――もっとして」



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