天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 囁いて、瞼を伏せる。

 もはや尻込みも怖じ気もなかった。

 ためらわさせるだけの良識なんてクソ食らえだと思った。


 迷わずおねだりに応じると、俺は自分でもおどろくほど大胆に野性を発揮した。


 啄むようなフレンチキスから、触れ合う時間がすこしずつ長くなり、彼女がこれまで和也にしてきたことのすべてを丹念にお返しした。


 甘やかな声が橘の鼻の奥から洩れると、電気が走ったみたいに頭が痺れた。

 滾るように熱く、翳りを帯びた感情が和也の奥底から噴き出して、彼をいっそう忘我の彼方へと連れて行く。



 もう、引き返せないところまで来ている……、そう悟る。



 出し抜けに身体を離される。

 迷い子のよう、にわかに眸がふるえた。

 触れる空気の冷たさにいきなり切なくなる。

 それを読み取ってか、慰めるようにまぶたにキスを落とされた。


「これ以上したらあなたの身体の方がつらくなるわ。悪いけどわたし、学校ではヤリたくないの」


 その科白だって俺の頭をかき回すには十分なのだが……と抗議するように彼女を見る。

 頬が多少赤らんだかと思わなくもないけれど、橘の表情はまだまだ涼しげで、ちょっと悔しい。


「そんな、恨めしそうな顔しないで」


 橘の腕を払って無理にも首筋に唇を当てれば、彼女は身を捩ってこれを避け、すばやく和也の頬をつねった。



「いてて」

「がっつくあなたも男らしくて好きだけど、我慢してくれたらますます格好いいわよ」


 格好いいという言葉にべらぼうに弱い和也は大人しく引き下がった。





「認めなさい。


 わたしのこと、好きでしょ?」


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