天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
公園。四阿のベンチにふたりは並んで腰かける。
とりとめもなく落ちてくる雪を見るともなしに見送りながら、和也たちは長いことこうして沈黙のときを過ごしている。
冷え切った彼女の身体が心配でせめて手を握ろうと思うけれど、彼女の手は固く握られて膝の上。
先ほどは俺を抱き寄せたのに、今はきっちりひと一人分の距離を保って座っている、この状況は何なのだろう……。
頑なな気配に和也の手は宙を掻くだけ掻いて、気落ちしたまま辛抱強く言葉を待つ。
「……どうして、すぐに追いかけてこなかったの?」
いきなりの詰問だったが、承知の上だった。
和也は呼吸をひとつして、
「言い訳はしない。追いかけられなかった……失望した橘の反応が怖くて」
「諦められたのかとおもった」
恨めしげに睨まれて、和也は肩を丸める。
ふん、と鼻先を鳴らし、橘は見せつけるように細い脚を組んだ。
「どうせ誰かに入れ知恵でもされたんでしょ? そうじゃなきゃ、あなたがあんな俗っぽいこと言うはずない」
俗っぽい、か……。滝、言われてるぜおまえ。
鼻先であしらわれたが、そのほぼつまらないと断じられたも同然の知恵に自己を揺るがしかけていた俺も相当だめだめだ。
けれど―――。
「ど、どうしても信じ切れないことってある、だろ……? お、俺だって不安になるんだよ」
おまえとはずっと、同じ場所で生活はしてきたけど、それだけで……同じ場所にいるっていうだけでそんな近しい関係になれたとは思ったことないし。
「それに、橘はみんなの憧れで、天使で、つまりそれは簡単には手の届かない人ってことで、俺がそれに値するなんて微塵も思わないし、考えたこともなかったし、だからいきなり好きって言われてもそんな……」
「ねぇ」
遮るように橘が鋭い声を放った。
「寒いんだけど」