天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
4-4
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「良心の呵責(かしゃく)ってもんはないのかねぇ」
正式に彼氏となった井之口和也に見送られ、意気揚々と帰宅した小百合をちょうど左の階段から下りてきた男が揶揄した。
あまりに抜群のタイミングで小百合は眉をひそめる。
おそらく窓から外の様子を窺っていたのだろう。
「おもしろい言葉を知ってるのね」
「首尾のほどは?」
「愚問ね。わたしが失敗なんてするとおもう?
見てたんでしょ?」
「女子を送るのは男子の務め。それがその子を好きでもそうじゃなくてもね」
「覗きなんて悪趣味ね」
「人のこと言えるのかね」
「なんとでもおっしゃいな」
鼻先であしらって、向かい合わせに造られた右の階段に足をかけたとき、男が降りてきた方の階段から忍ばせた足音が聞こえてきた。
手すりからそっと覘かせる迷い子のような青い顔に、小百合は、あら、と微笑みかけた。
「あ、おかえり……」
「うん、ただいま。
あ、ねえ、今はまだ彼が外にいるから、もうすこし時間差つけてから出て行ってくれる?」
あとの方を先に降りてきた男に向かって言うと、小百合は足取りも軽く階段を上がっていく。
男は階上の青い子供を振り仰ぎ、口元を緩めて見せた後、向かいの階上の廊下を行く、普段以上に得意満面の女へと遅ればせ言った。
「了解」
そしてまた、自らは下りてきた階段を上がっていく。