星月夜のマーメイド
一階に下りて、受付の横にあるカウンターに本を乗せた。
「あらら、どうしたの?」
「あ、中島さん。色々あってこの方が2階から持って下さって。」
その中島という名のおばさんは、「それはそれはご苦労様でした。」と言いながらニヤッと笑った。
彼女は光輝にお礼を言ってまた二階に上がってしまった。
受付で未だボーっとしていた光輝に、「男手って必要なのよね…。」と言いながら中島がヒラッと何かの紙を見せた。
「バイト募集?」
「そう。君は見た感じ学生でしょ?この図書館でバイトしない?」
「えっ?」
「ちょうどバイトの男の子が今日で辞めちゃうのよ。」
「…その方の替りですか?」
「何…嫌なの?さっきは張り切って本を持ってたくせに。」
中島はまたもやニヤリと笑った。
(…この中島って人、侮れない。)
「いや、図書館の仕事って公務員の人しかできないと思ってたんで。」
「今どきは違うのよー♪」
決まった決まったと手をたたいて喜びながら、中島はどこかに電話をかけ始めた。
「あ、課長?バイトの男の子決まったから。はいはい了解。」
「えっ?ちょっと待って下さい。俺まだ何も言ってないんですけど…。」
中島は受話器を持ったまま振り向いた。
「…やるの?やらないの?」
「…はい。やらせていただきます。」
ニコッと笑った中島は「決まりでーす。」と言って元気に電話を切った。