星月夜のマーメイド
彼女だ。
光輝は少しだけドキッとした。腋に汗が滲んでくる。
「お疲れ様です。休憩ですか?」
「うん。それよりビックリしちゃった。この間迷惑かけたばかりだったから。」
そう言いながら、彼女はバッグから水筒を出し飲んだ。
「マイボトル…なんですか?」
「そうなの。節約してるから。」
ニコニコと屈託のない笑顔を向けられ、ドキッとしてしまった。
「光輝君、明応大学なの?実は私もそこに通ってたんだ。」
「えっ?通っていたっていうと…卒業生?」
「うーん、厳密に言えば途中で辞めてしまったから卒業生ではないけど、年齢的にはそうなるかな?」
同じ歳くらいに思っていた光輝は、想像以上に年上だったのかと驚きを隠すことができなかった。
「私、こう見えてもうすぐ24歳なの。落ち着きないから若く見えるでしょ?」
「いや…はい。って、えっ?こういう時なんて言えばいいのか…。」
「フフフ、光輝君正直だね。」
「いや、そういうことじゃなくて、若くて綺麗って言うか…あれ?俺何言ってんだろ…。」
頭が噴火したという感覚を初めて経験した光輝は、真っ赤な顔をして下を向いた。
「エレンちゃーん!」
「あ、中島さんが呼んでる。私もう行くね。光輝君ゆっくり休憩してね。」
「…はい。スミマセン…。」
光輝は何故か謝りながら、中島の元に走っていく彼女をただじっと見つめた。
(…エレンっていう名前なんだ…。)
今日のバイトの収穫は、彼女と時間を共有できたことと、名前を知れたこと。
しかしそれをチャラにするほどの羞恥で、マイナスな1日となった。