星月夜のマーメイド
「そんなクールな光輝君にお願いがありまーす。」
史也は横に寝ころぶ光輝の顔を覗き込んだ。
「頭ん中沸騰寸前の俺を助ける為に、協力してくださいよ。」
「は?どういうこと?」
「だから、この勉強尽くしの毎日から解放させてくれって事。
9月の半ばに連休あるじゃんか。一緒に遊びに行かねーか?」
光輝は呆れたように溜め息をついた。
「俺ら、そんな事やってる時間…」
「わーってるよ!だから、連休の2日間だけだって!実はさ…」
史也は急に座り直してバッグをゴソゴソとあさり始めた。
「これこれ」と言いながら目の前に出したのは旅行会社のチラシだった。
「国民休暇村…?」
そこに書かれていたのは、瀬戸内海にある小さな無人島の説明だった。
その無人島にはホテルがあり、キャンプやサイクリングなど一年中安価に遊ぶことができる。
“日本で体験する魅惑のリゾートアイランド”と謳っていた。
「無人島か…。面白そうだな。」
「だろ?俺の親戚が行くはずだったんだけど、海外出張にあたったらしくてさ。
費用も全部出すから気晴らしに行って来いっておじさんが譲ってくれてさ。」
光輝はニタッと笑った。
「ならば行くしかないでしょう。」
「ひゃっほー!光輝ちゃんステキ~!」
まとわりついてくる史也を足で蹴りながら、ふと考えた。
「おい、よく考えたらその連休って…。」
「「模擬試験??」」
二人で声を揃えガックリと肩を落としたが、諦めきれない史也は光輝のノートに走り書きをした。
【9月の連休は、国民休暇村に行くぞ】
「何で書くの?普通に言えって。」
「だってさ…。」
「まぁ命の洗濯をしにいくって事で。行っちゃいましょうか。」
こんな軽いノリで大切な模擬試験をキャンセルし、はるばる瀬戸内海に浮かぶ無人島へ行く二人であった。