星月夜のマーメイド
光輝はその場を離れかけた。
このままここにいてはいけないと頭では判断する。
でも駄目だ。
体は言うことを聞かない。
いつのまにかエレンの前に立つ。
「エレンさん!」
エレンを支えたい。
泣きじゃくるエレンを抱きしめたい。
何も役に立たないかもしれないけど、エレンの笑顔をまたみることができたら…。
「!!光輝君、どうしたの?」
「こんな所で寒くないの?」
先程まで不安げな表情のエレンだったが、光輝を見た瞬間涙をぬぐって笑顔を向けた。
「光輝君こそ、なぜ?」
「泣きながら走っているエレンさんを見かけたから…。」
エレンから笑顔が消えた。
「はい、コーヒー。」
光輝が今し方自販機で買った缶コーヒーを差し出した。
「…ありがと。」
最近のエレンはやはりおかしかった。
あの時のマーメイドと一緒だ。
「…光輝君に変なところ見られちゃったね。」
しばらく沈黙が流れた後、ぽつっとエレンが話し始めた。
「男の人も一緒にいたの、見た?」
「うん。」
「あの人、私の旦那さんなの。」
「うん。」
「話があるからってアパートの前で待ってて。」
「うん。」
「ずっとずっと好きだったの。」
「うん。」
「でももう、おしまい。」
「…うん。」
エレンは大きく深呼吸すると、光輝が座る方へ向きを変えた。
「私のつまらない話、聞いてくれる?」
「もちろん。」