星月夜のマーメイド
「エレンさん。俺本当は去年エレンさんに会ってるんだ。」
「えっ?どこで?」
「この話、一生隠しておこうと思ったんだけど…。」
ちょうど1年前、泣いているマーメイドに出会った事。
その日からエレンの事が忘れられなかったこと。
その時泣いていた理由は衝撃的なものだった。
「あの時…。実はその前の年に流産してね。もう子供は望めないだろうって医者から言われて。」
本当はダンナと弔いをしに来るはずだった国民休暇村に、一人で行かなければいけなかった事も。
「ダンナさんのお父さんは社長さんで。元々結婚には反対だったの。
子供ができたから籍を入れたけど、もうその用はないから別れてくれって。」
「っひでーな。それでダンナはどうしたの?」
光輝はつい興奮して拳を握りしめていた。
「最初は守ってくれてたんだけど、昔からお父さんの会社を継ぐことになっていたから。最後は逆らえなかったのね。」
ワナワナと震えがくるのを必死で抑えた。
「親じゃなくて、大事なのは自分の気持ちだろうが!」
「社会に出ると理不尽なことが多いのよ。会社の人達もからむしね。」
「エレンさん…。」
「いよいよ他の人と縁談が決まったから別れてほしいと言われたのが、1か月前くらいかな?」
エレンの様子がおかしかったのはそのせいだったのか。
「去年から別居もしてたの。早く離婚しなきゃって思ってはいたんだけど、結局逃げてたのよね、私。」
「そんなの逃げじゃない!エレンさんはそんなんで本当に納得してるの?」
「光輝君…。」
「そんな男は本当は願い下げだけど、エレンさんがまだ恋しいと思うならぶつかっていけよ!」
エレンは悲しい声で叫んだ。
「ぶつかれないの!…義父から言われたの。その縁談相手に子供ができたって…。」