星月夜のマーメイド
ガサッ。
二人の背後に人影とハァハァと息が聞こえた。
「愛恋!」
光輝はスクッと立ち上がってその男に近づいた。
「君は…?」
「…俺は、エレンさんを大切に思っている男です。」
「光輝君、待って。何を言って…」
心配そうにエレンは光輝の横に立った。
「そうか、君にもこういう男が現れたんだ…。ならよかった。」
その言葉にカチンときた光輝は、今にも胸ぐらをつかみそうな勢いで更に男に近づいた。
「何だ、その言い方。」
「も、光輝君…やめて。」
エレンはその場にヘナヘナと座り込んだ。
光輝はそんなエレンの傍にしゃがみ、肩を抱いた。
男はエレンに向かって一礼した。
「愛恋、僕はもう疲れてしまった。こんな僕にはもう君を守ってやれない。すまない。」
「随分自分勝手だな!」
「僕はそういう男だ。結局、親の言うことに逆らえない弱い男なんだ。」
うつむいてはいるが、目線はエレンを見ていなかった。
その姿にエレンは意を決してつぶやいた。
「もういいよ。宗司さん、今までありがとう。
離婚届はすぐに郵送するから。」
「エレンさん…。」
「ああ、頼む。本当にすまなかった…。
僕がこんな事いう筋合いはないけど、幸せになってほしい。」
「…わかったから、もう行って。
美鈴さん待ってるんでしょ?」
声にならない声で、エレンはぽつりとつぶやいた。
『好きだったけど…サヨナラ。』