星月夜のマーメイド
その男が去った後も、エレンは立ち上がらなかった。
いや、足が震えて立ち上がれなかったのだ。
ゆっくりエレンの体を起こし、ベンチに腰掛けさせた。
「エレンさん、本当にこれで良かったの?」
「ありがとう。心配かけちゃったね。」
「俺は…俺ならこんな事絶対しない!」
光輝はエレンを思い切り抱きしめた。
「俺はまだまだ未熟だし学生だし頼りないけど、ずっと側にいてエレンさんを守りたい!」
「光輝君…。」
「俺、本気だよ。ずっと好きだったんだ。出会ったあの時から…。
こんな時に何かズルいかもしれないけど、悲しい時や寂しい時は、俺を頼ってよ。
辛いときはいつでも側にいるから!」
「 …。」
「エレンさんが言ったんだろ?
人間は独りじゃ生きられないって!」
エレンは光輝の胸に手を当ててゆっくりと離れた。
「…ありがとう、光輝君。
こうして今側にいてくれただけで充分。」
「…ごめんね。」
そう言うとエレンは走り去った。
翌日。
光輝が目にしたのは、エレンのいなくなった図書館だった。