ねぇ、呼んでよ・・・
「はぁ、めんどくせぇ・・・」
ついた溜め息とともに最近のオレの寝床になっているホテルのスイートルームへと独り言は吸い込まれ、消えてゆく。

「仕事・・・行かなくちゃな。」
気だるいながらも、今じゃ当たり前となった正装のスーツへ袖を通し、ネクタイを締め、自慢の黒髪をオールバックへセットし、少し長めの襟足を整える。

「よし。行くか。」
外出用のカードキーを携え、お気に入りの革靴を「コツンッ」と一度
ならすと、器用に後ろ手にドアを締め、スイート専用のエレベーターへと歩を進めていく。
慣れた手つきでエレベーターを操作し、目的の1階に到着するといかにもといったオーラに身を包んだ1人の男がいた。

「おはようございます。社長。今日もお早いですね。」

コイツの名前は菊池恭輔(きくち きょうすけ)。オレと同じく
「ゾフィア」に勤める社員、もといオレの専属秘書だ。

「お前こそな。というよりオレより遅いことなんて今までねぇじゃねぇかよ」
「ええ。社長を待たせるわけにはいきませんから。
今日も30分近く待つ羽目になりましたよ。」

といつもの腹黒い笑みと共に軽く毒を吐くこの男は想像通り「食えない人間」だ。

「お前はオレのこと絶対に社長だとは思ってないよな。」
「そのようなコトはありませんよ。多分ですが・・・クスッ」

と語尾に含み笑いを付けてくるあたりがそれらしいと言える。
「まぁ、いい。行くぞ」
「表に車は廻してありますので。」

と補足をし、オレの半歩後ろを歩き2人揃って車
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