ハツばあ
コタツで二人で、

せんべいを食べながら、

お茶を飲んだ。

ハツばあは南部せんべいゴマ味が好きだ。

「ハツばあ、耳だけちょうだい。」

「また、ゆきちゃんは耳ばっかり。」

「耳がうまいんだもん。」

南部せんべいのみみは香ばしくてうまい。

そこだけ食べるとばあちゃんに返す。

「ハツばあ、戦争怖かった。」

「怖いってもんじゃねえよ。」

「ふーん。」

「ばあちゃんさ、川で皿洗ってたんだ。

 そしたらサイレンが鳴った。

 でも川にいたからさ、

 隠れるところがなくてさ。

 後ろみたら、

 もおB29がいたんだよ。

 殺されると思ったよ。

 とにかく、

 頭だけおさえて走ったんだ。

 走っても隠れられなくて。

 B29はそのまま追い越して、

 向こうの街に飛んでって、

 爆弾を落としていったよ。

 街が焼けていくの、

 見えたんだ。

 たださ、

 逃げるとき、

 皿割っちゃって。
 
 あー怒られるって思ったよ。

 子供だったから。

 お母さんは、

 サイレンが鳴った時に、

 あたしがいなかったもんだから。

 生きてた。

 よかった。

 ってそれしか言わなかったよ。」
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