トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
「今これが来るか!」
「ふっふっふ。切り札は最後に取っておくもんだぜ」
「くっそ、この前のことまだ根に持ってんのかよ……」
「さあな」
悪い顔で口端を持ち上げる浪瀬。
男子は悔しそうに、裏を向いたカードの山から数枚引いた。
その時。
「夏休み中ご苦労だな、さっさとホームルームしてとっとと帰んぞ」
「やりぃ!」
「チッ………」
絶妙なタイミングで現れた担任教師に、喜ぶ者と悔しがる者。
もちろん浪瀬は後者だ。
あちこちでできていたグループは、名残惜しみながらも散っていく。
生徒が席に着くのを待たず、担任は気だるげに話し始める。
宣言通り早く帰りたいようで、怒涛のごとく進めていく。
連絡事項はプリントを配る十数秒で片をつけ、回収物は後ろの席の数人が大活躍。
彼らが全ての提出物を回収し終える頃には、前寄りの席の生徒は各々の時間をエンジョイしていた。
あーあーかわいそうに。
でも、あんたたちの尊い犠牲のお陰で、私たちは今こうしていられるのです。
頬杖をつきながら、奴隷と化した後ろの席の生徒に心の中で合掌する。
きびきび働かされる数名をぼんやり眺めていると、我らのボスとばっちり目が合った。
瞬時に下を向いたが、頭の上から視線がちくちく刺さる。
嫌な予感しかしなくて、背中を冷たい汗が流れた。
無心で耐えていると。
「よーしお前ら、今日は終わりだ。とっとと帰れ」
担任の鶴の一声で教室の空気が浮き足立ったものになる。
帰ることへの欲望がよく分かる。
我先にと飛び出した生徒に。
「くれぐれも俺の手を煩わせることはするなよ」
と釘を刺す。
生徒たちは聞いていたのかいないのか(十中八九後者)返事はなかった。