トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
今日の目的は覗きではないから、中央に堂々と立つ。
まさか、ここに立つ日が来るなんて。
昨日までの私には考えられなかったわ。
授業をサボって書いた手紙。
浪瀬に宛てたそれには『放課後、校舎裏で待つ』と書いた。
ぬるい風が砂を巻き上げる。
腕で目を庇うと、ジャリ、と石を踏む音。
来ましたか。
校舎側を見ると、浪瀬が歩い来るのが見えた。
私がこれから言うことが分かっているのでしょう。
「こんな所に呼び出して何の用だ?」
彼はわざとらしくとぼけながら、私の目の前で足を止めた。
私が浪瀬に宛てた手紙を持ち出して。
「つか、果たし状じゃなく、もっとこう、かわいいものを想像してたんだけどな」
その顔はニヤついていてイラッとくる。
あんたに限ってそれはないか、という副音声が聞こえた。
「半紙に筆って、他になかったのかよ」
ねぇよ。
あんたは血の付いた、怪奇文書がお望みか。
ルーズリーフに鉛筆じゃなかっただけありがたく思いなさい。
っと。
我慢だ、がまん。
これで最後なんだから。
引きつる顔の筋肉を無理やり元の位置に戻す。
「持ち合わせがなかったもので」
にっこりと作り笑い。
果たし状。
あながち間違いでもない。
私にとってこれは、戦いなのだから。
「そうそう、ここに呼んだ用ですがね」
さあ、先制攻撃だ。
「浪瀬君好きですツキアッテクダサイ」
しまった。
思わず棒読みしてシマッタ。
『好き』なんて、恥ずかしくて素面じゃ言えないもの。