トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
浪瀬らしくないミスだ。
今までの彼の行動パターンからいって、外で会うなんてリスクのあることは滅多なことではしないはず。
秘密の恋を楽しむように装い、搾取する生き物だったはずでしょう?
外面だけは良かったのにな。
ちらと浪瀬をみると、両頬に綺麗なもみじが咲いていた。
一夜明けても残ってるなんて、相当強い力ではたかれたのね。
現場を目撃した友人に反抗しない浪瀬。
どうでも良いような顔しちゃって、あんたには死活問題でしょうに。
やがてチャイムが鳴り、教師が来る。
本日の授業も、今までと変わらず始まった。
時は過ぎ、昼休み。
ローテーションで回る空き教室から中庭を見下ろす。
いつものようにドラマや教師への愚痴をこぼす者も少なくない。
が、圧倒的に多いのが、浪瀬忍の噂話だ。
かつて、校内5指に入るといわれたイケメンの面影はなく、彼の評判は面白いほどに落ちていた。
内緒で付き合っていたという女生徒たちが口を割り、どんどん余罪が出てくる出てくる。
中には、明らかに作り話であろう過激なことを言いふらす者までいた。
たったひとりの生徒に対してこの噂の広がりよう。
さすが、校内5指の顔だけイケメン。
ガラガラと引き戸が動く。
「よぉ」
「……やあ、有名人」
私以外誰もいない教室に、時の人、浪瀬忍が入ってきた。