トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
浪瀬が唐突に発した言葉に、何のことかと視線で問う。
彼は前を向いたまま話を続ける。
「周りは俺が何股かけたとか騒ぐけど、お前は何も尋いてこない。」
知ってたからですよ。
「俺は、それがとても心地いい………」
目を閉じ、穏やかな表情をする彼から目が離せない。
「なぁ」
ふと、微笑を浮かべた彼が振り向き、目が合った。
どきりと心臓が一際勢いよく跳ねる。
「俺、お前が好きだよ」
慈愛のこもった笑みを浮かべて私を見る目に囚われる。
窓から差し込む光の加減か。
私は、柄にもなく、この何様俺様忍様のことを…………綺麗だなんて思った。
一瞬、浪瀬のチャームに囚われてしまったが、ハッとして波瀬から目をそらす。
落ち着け。
私は浪瀬の手口を知っている。
甘いマスクに甘い声。
自身の魅力を200パーセント引き立てる角度。
そして何より、私が誰よりも1番と錯覚させる演技力。
話で聞いていたよりも破壊力が強かった。
数度深呼吸して気分を落ち着かせる。
そして、ゆっくり振り向いて、浪瀬に負けないくらいの微笑みで魅せる。
「はい。有り難う御座います」
彼はまだ、バツゲームを続けている。