トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
ゾロゾロと付いてくる女子たちの痛い視線を浴びること数分。
「浪瀬君よ…………」
「なに、今さら他人行儀に。忍でいいぜ」
「この手は何かな?」
私はいつの間にか指を絡ませて繋ぐ手を持ち上げた。
周りを見ろよ浪瀬忍。
周りからの視線が痛いのなんの。
もう我慢の限界なんて、とっくに過ぎてるんだからね!
後ろをぞろぞろ付いてくる女子に加えて、通りすがりの生徒の視線までふたりじめ。
嬉しくないわ。
私みたいな凡人は、人の目に晒されることなんて慣れてないのよ。
のーさんきゅー、お分かり?
すると浪瀬は当然のように言う。
「リードだ」
「私は犬ですか」
「離したら逃げるだろ」
当たり前でしょ。
そんなことはおくびにも出さず、しなを作る。
「そんなっ、文化祭で忍とデートできるチャンスを逃すはず無いじゃない!」
浪瀬の嫌いとする、媚びを売る女を演じる。
特に今は、本命がいると言い回ってるんだ。
その子に誤解を招く言い方は余計に嫌がるはず。
さあ、調子に乗るなと突き飛ばすがよい!
身構えると。
「そうだろう、そうだろう」
彼は気を悪くした様子もなく、むしろご機嫌に私の手を取り歩き出す。
どうしてこうなった。
その問いに対する答えは返って来ない。