トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
どーしよっかなー。
考えている間にも、浪瀬争奪戦は激しさを増し、野次馬が周りを囲む。
私に訴えかける浪瀬の瞳。
それはまるで捨てられた子犬のようで。
私の足は、自然と野次馬の中心に向かっていた。
「お待たせ忍」
トイレで練習した可愛い声を出した。
周囲の視線が私に集まる。
女子からは刺さるようなそれをいただきました。
すべての視線が外れたのをいいことに、浪瀬がほくそ笑む。
それに気付いた私は、笑顔の裏で怒りを抑えていた。
クソ、やっぱし捨ておけばよかった。
だがもう後戻りはできない。
一瞬でも彼に同情したのが運の尽き。
そこで私の未来は決まっていたのだ。
だがしかし、ここで諦める私じゃないわ。
今からでも出来ることをするだけです。
ええ、顔バレの心配がないから出来ることです。
チキン上等!
笑顔という名の仮面の下で、怒りの炎が燃えている。
「忍、あなた私というものがありながら、公衆の面前で浮気とは………」
作戦変更。
彼氏の浮気で破局の設定でいきます。
「いい度胸じゃないの?」
浪瀬の胸倉を掴んで引き寄せる。
さもすればキスできそうな距離だが、両者これっぽっちもそんな気はない。
だが、周りはそうは受け取らなかったらしい。
「ヒューヒュー!」
「キース! キース!」
冷やかし男衆のキスコール。
「キャーッ!」
「いやーっ!」
取り巻き女子の悲鳴。
どうやら私はまた、選択肢を間違ってしまったらしい。
チキンな私はいたたまれなさに燃え尽きた。