トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
明日もあるので、終わり次第自由解散。
これは、私にとって好都合だった。
今日もまた、そそくさと校舎裏に一番近い女子トイレへ。
浪瀬はどうしたかって?
男とツレションする気はないと言って置いてきたわ。
今頃はその辺の誰かと帰ってるんじゃないかな。
……諸悪の根源のことはもういい。
荷物置きに鏡を立てて、折ったスカートをもとに戻す。
化粧落としで顔を拭いていき、ある程度落ちたところでうねる髪を三つ編みで誤魔化した。
最後に鏡で確認。
どこからどう見ても、いつもの安田野枝だ。
メイク道具と鏡を隠し、さあ帰ろうと戸に手をかけると。
「おい、神様って奴はいるか?」
迷える子羊がいらっしゃいました。
しかもさっきまで聞いてた声と酷似している気がするのは、残念ながら気のせいではないでしょう。
「居るんだろ、返事くらいしろよ」
放課後とはいえ、女子トイレにずかずかと入り込んできた浪瀬は、あろう事か私の入っている戸を連打した。
おやめなさいって。
しばらく待つが、止める気配はない。
仕方ない。
「男の相談者は初めてじゃないが、ここまで乱暴なのはキミが初めてだよ」
神を脅迫するなんていい度胸じゃないか。
「………なんだ、やれば出来るじゃねぇか」
こいつ………。
私はこのとき、囲まれて身動きが取れなくなっていた奴を救い出した屈辱を思い出していた。
むくむくと悪戯心が沸きあがってくる。
「用件はなんだい? ま、ここに来るって事は恋愛がらみなんだろう?」
ニヤニヤが収まらない。
なんと言ってからかってやろうか。
あの、女に困ったことのない浪瀬が、どのような相談を持ってきたか。
実に興味深い。