トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
「用件? そうだな………」
え、今考えるの。
相談に来たんじゃないんですか!
フラストレーションが溜まっていく。
「俺が片思いしてるって事は知ってるな」
「ボクを誰と心得る。それくらい知ってるよ」
そうでなくても、自分で学校中に言いまわっているくせに。
「なら話は早い」
息継ぎの後、浪瀬は一息に言い切った。
「本命に本気にされないんだが、どうしたらいい?」
そんなの簡単じゃないか。
「誠意を見せなさい」
「誠意?」
「キミは遊び人のイメージが強すぎるんだ。それをなんとかしなければ始まらないからね」
「んなもん、どうやれってんだよ」
「簡単さ。明日はずっと一緒に居ればいい。そうすればいずれ伝わるよ」
そんなわけないがな!
私は心の中でつぶやく。
対する彼の返事はあっさりしたもので。
「わかった」
あら、なんとも物分りのいい………。
「明日は覚悟しとけ!」
決め台詞を残して、浪瀬の足音は遠ざかった。
「覚悟しとけ、ってどういう意味だったんだろう?」
少し考えたが、まあいいかという結論に達した。
ここで重要なのが、浪瀬が本命さんにべったりになること。
つまり、私の近くには居なくなる。
これで、明日の身の安全は確保されたことになるのだ。
「やっふい!」
感動をぶつけるようにトイレを飛び出す。
思わぬ収穫に浮かれ、弾んだ足取りで帰路についた。